吹雪の中で


常に雪が降っている・変なオーラのせいで空から頂上へ行けない・野生のポケモンは無駄に強い。
何故に悪条件が三拍子そろったこの山に籠ろうと思ったのか、甚だ謎だ。毎回食糧やらを差し入れに来るこっちの身にもなれってんだちくしょう。
そんなことをブツブツ呟きながら、暖かさを求めて隣を歩くウィンディにすり寄る。あぁ暖かい。でも顔に容赦なく吹き付けてくる雪が寒いを通り越して痛い。
そろそろ私死ぬんじゃないの、と思い始めた頃、ようやく目当ての人物の元へたどり着いた。
相変わらずの赤い服(吹雪なのに半袖なのはもう突っ込むまい)が真っ白な世界の中に浮いている。

「レッド!」

大声で、ほとんど叫びながら駆け寄る。ブーツが雪に沈んで非常に走りづらい。
くるりとこちらを向いたレッドはこれまた相変わらずの無表情。それでも、私とウィンディの姿を確認すると微かに笑って見せた。
ちょいちょいと手招きされるがままに近づくと、グッと腕を引かれレッドの腕の中へ納まる。

「………ぬくい」
「第一声がそれですか」

ぎゅう、と背中に回った腕に力がこもる。熱をよこせ、と言わんばかりに。
寒いならもっと上に着ればいいのに、と苦笑しながら私もレッドの背中に腕を回し抱きしめ返す。半袖で立ってたくせに、意外と暖かい。

「…レッド」
「…?」
「ポケモンバトルしよ」
「…いいけど」
「それで、私が勝ったら一緒に下山して」

言いながらレッドの体を押しかえす。離れていく体温が少し恋しかったけれど、いつまでもくっついてるわけにはいかない。
自分より頭一つ分背の高いレッドを見上げれば、微かな笑顔。腰につけたボールに手を伸ばし、真正面から見据えられる。
無表情な彼のこの笑顔。私もボールに手をかけながら、笑い返す。笑顔とは元来好戦的なものだと、どこかで聞いたのを頭の片隅で思い出した。



答える代わりに、笑って
お互いの視線が交わった瞬間、ボールが宙を舞った










title by 群青三メートル手前





  • 09.11.02