バッジを全部集めてリーグチャンピオンに勝って図鑑を完成させて得たものは数知れず。沢山の思い出だとか人との関わりだとか、数え切れないほど多くのものを手に入れた。
しかし全てが終わった時に得た達成感と引き換えに、次に目指す場所を失った。それまで手探りで、それでもしっかりと見据えていたもの。それがなくなってしまった。
目指していたものにたどり着いた途端、達成感のすぐ後にやって来たのは虚無感に近い、何とも言えない気持ち。
今まで目標としていたものに一直線でそれ以外のものに目を向けて来なかったせいか、何をすればいいのかわからなかった。
まぁつまるところ、暇なのだ。





「旅ばっかりだったから普通の人の生活がわかんない」
「普通ねぇ」
「仕事するにもさ、定職だったらその地で暮さなきゃいけないでしょ?でも旅に慣れ過ぎて毎日家に帰って暮らす、っていうのがむず痒いのよね」
「旅を住処とす、を体現してるな」
「いい言葉だよね、それ」
にとってはな」
「うーん、何か面白いことないかなー」

「あ、チャンピオンは無しね」と言うに苦笑する。旅ができなくなるからと言ってあっさりチャンピオンの座を渡されたのは何年前の話だったか。
トレーナーなら誰もが羨むチャンピオンの座をこうも簡単に投げ出したのは、それでも彼女だけではないのだから世の中わからない。
意外と手に入るとすぐいらなくなるものなのかもな、と思いながら、ずっとその場所にいる自分は何なのかと思う。

「いっそ私を倒すくらいの人がいてくれたらその人のために頑張るのに」
「…悪かったな、お前より弱くて」
「いやいや、ワタルは強いでしょ」
「お前に言われてもな」
「だって理事長さん言ってたよ、こんなに何年もチャンピオンを続けて人はなかなかいないって」
「そりゃあ、たまに来る俺を倒すほどの奴らはさっさとチャンピオンを辞退するからな」
「わー勿体無い」

この野郎、と頭を軽く小突く。軽く睨まれるも、下から見上げるようになので全く怖くない。
睨んでも効かないと感じたのか、「野郎じゃないよ、女だし」と返された。そう言われると痛い。そういえば女に対しては何て言うのだろう。

「いっそレッドくんみたいにシロガネ山にでも籠ろうかな」
「今さら野生相手にしてもしょがないだろ」
「それでも何もしないよりかはましでしょ。それに風の噂でレッドくんとこみたいに強い挑戦者が来てくれるかもしれないし」
「気長だな」
「やること、なくなっちゃったからね」

ポツリと、呟く。短い、何ともない言葉だったけれど、にしかわからない複雑な思いが込められているようで。
彼女にしては珍しく弱気な様子を見ていられなかったので、腕を引いて抱きしめる。特に抵抗らしい抵抗がない辺り、やはりいつもより元気がない(いつもなら笑顔でアッパー)。
こて、と素直に身体を預けてくるに心の中でガッツポーズ。悪いとは思いながらもよからぬ思いが沸いてくるのは男の性なのでしょうがない。
それでも、見たいのは弱っている姿ではなくいつもの明るい姿なのだ。情けないことに気の利いた言葉も思い浮かばないので、適当な話をしてみる。

「…やりたいこととかないのか?」
「んー…遺跡や神話の調査ならやってみたいかも」
「ならアルフの遺跡とかあるだろ」
「あ、いいかも。…ん?でも神話ならシンオウの方がいいかな」
「そんな遠くまで行くのか!?」
「遠いって言ってもカイリューに乗れば何とかなるでしょ。それに私、ホウエンやシンオウってまだ行ったことない」
「まさかまた旅に出るとか言い出すんじゃないだろうな」
「うん」
「…………」

予想通り過ぎる答えに溜め息しか出ない。せっかく帰ってきて腰を落ち着けているというのに、こいつはまたすぐにどこかへ行くのか。

「なんて、冗談」
「は?」
「行きたいのは山々だけどね。でも」

グッと胸倉を掴まれた。まずい殴られるか。来るであろう衝撃に耐えるべく身体に力を込めるも、一向になにも来ない。
はて、と思った矢先、ちゅっなんて可愛らしいリップ音。名残惜しさを感じる間もなく離れた顔。
思考が止まった。落ち着け、何が起きた。

「ワタルが寂しがるから、しばらくは傍にいて好きなことに付き合ってあげるよ」

自分でやっておきながらほんのり頬を染めて言うに、ようやく事態を飲み込めてきた俺。
は恥ずかしいのか人の服をちょっとだけ握りながら横を向いていた。あぁ本当に愛おしい。自然と笑みがこぼれる。


「?…!」

仕返し、というわけでもないが長めの口づけ。驚いてるのか仕返しが来ないのをいいことに思う存分を堪能する。
服を握るの手に力が入って来た頃、ようやく解放すれば真っ赤な顔の。それが余計にそそられるとわかってやってるのか。

「どうせからしてくるなら、これくらいが良かったな」
「無理無理無理無理。やられるのも無理だし」
「そんな連呼しなくても」

「あー」「うー」と唸ってるの顔は見えないが、きっと未だに真っ赤なのだろう。誤魔化すように人の服を握りしめ、胸に顔を押しつけてくる。
そんな様子が可愛くてクスリと笑えば、笑うなと言わんばかりに鳩尾に一発喰らった。

…」
「ワタルが悪い」

痛みに耐えながら訴えるように名前を呼ぶも、返ってくるのは冷たい声。さっきまでの良い雰囲気はどこへやら。
しばらく痛みに耐えていたが、不意に重みがかかった。ぽすりとが寄りかかって来たのだ。

「…今日は、随分積極的だな」
「たまには、ね」

誰かに背を預けてみたくなるんだよ、と。
それがどんなに嬉しかったことか。選んでくれて、預けてくれて。




one and only












プラチナ連載とつなげようと思ったけど無理だった。ロリコンだの露出狂だの言われるけど一途で包容力はありそうだよねっていう
執筆 09.11.18
UP 10.02.26
title by 群青三メートル手前