科学の発達した現代は、それはもう膨大な数の機械で溢れている。料理も洗濯も買い物も、ありとあらゆる所に機械は存在し、人間の生活を支えている。自然を守るために使われている時もあるのだから驚きだ。機械によって救われた命も少なくない。もはや人間、いやポケモンや自然も含め、機械のない生活は考えられない。機械万歳。機械音痴である私でも、機械がないと多分、まともな生活はできない。

「だがしかし、もっと大事なことがあると思うんですよデンジさん」
「何がだ」

工事現場でよく見かける、火花が飛び散るあの作業。目の前の男は先程からずっとその作業に没頭している。わざわざあの奇怪なジムの仕掛けを通っての訪問者には目もくれない。言葉は返ってくるものの生返事ばかり。こうなると逆にストレスになるのだ。呼び出しておいてコレだから腹が立つ。しかし呼び出しを無視すると後が怖いのは実証済み。だったら自分で来いよと思うのだが、自身フラフラと旅をしている身なので何とも言えない現実。
はデンジの隣にしゃがみ込み、作業する手元をぼんやり見ながら話をしようと試みた。試みて、答えは来たものの本人の視線は手元の機会に注がれたままだ。わざとらしく溜め息をつけば「幸せが逃げるぞ」と、やはりこちらを見ずに言われた。ちくしょう、誰のせいだ。心の中で悪態をつき、デンジの頬でも引っ張ってやろうかと思って、やめた。万一それでデンジが手を滑らせて回路を間違えでもしたらひどい目に合いそうだ。
デンジと向き合って会話することを諦めたは、近くで静かに座っていたレントラ―を招き寄せてブラッシングをし始めた。どうせ勝手に帰ろうとしても帰らせてはくれない、というか現在進行形で改造中の道を通れるはずもない。仕方がないので、デンジの背に寄り掛かりながら、勝手に会話を進める方向へ入った。レントラ―は気持ち良さそうにウトウトし始め、自分も自分も、と寄って来たライチュウやサンダースにもブラッシングを始めた。

「確かに機械はすごいけど、何事もやり過ぎはどうかと思うよ」

ねーライチュウ。ライライ!誰が飼い主かわからないほど仲の良い一人と一匹。ライチュウの返事に気を良くしたは、嬉しそうにカバンからポフィンケースを取り出した。もはや本当の主人以上にポケモンたちを知り尽くしているは、それぞれの好きな味を与えた。嬉しそうに食べるライチュウの頭を撫でながら、の顔にも自然と笑みが浮かぶ。

「まったく、君たちは飼い主に似ないで素直に育ってくれて嬉しいよー」

しみじみと、呟く。ライチュウ達はわかっているのかいないのか、ただ褒められているのはわかっているらしく、嬉しそうに撫でられていた。
もちろんデンジとて素直じゃないわけではない。気分屋というか、基本的に無気力と言うか、燃えにくいだけなのだ。それはも十分承知している。もっと言えば、デンジが機械いじりを好きなこともわかってるし、こうして呼び出されてもロクに構ってもらえないことも、知っているのだ。最初の内はこっちが話しかけて、その内ふてくされてライチュウ達と遊び始めることも、これまで幾度となく繰り返してきた。それでも、何回でも繰り返す理由はただ一つ。

「やっぱり、好きなんだよなぁ」
「何が?」
「うわっ出た!」
「失礼な」
「散々無視してたくせに今更のしかかって来ないでよ」
「終わった。で、何が好きだって?」
「ナギサシティのさんは、ナギサのジムリーダーのデンジくんが大好きなんだって」
「へぇ。そういえば、ナギサのジムリーダーのデンジくんは、ナギサシティのさんが大好きなんだと」
「これっていわゆる両想いってやつだね。やったね」
「向かう先はゴールインってやつだな」

振り向いて、笑って、それからキスをして。唯一気になる視線であるライチュウ達は、いつの間にかデンジによってボールに戻されていた。
最初からわかってはいた。機械いじりに夢中でロクな返事をしないデンジも、ふてくされてライチュウ達に構うのも、そうしている内にデンジが構いに来ることも。
もっと言えば、実はデンジがしっかりやライチュウ達の会話を聞きながら、ひっそり笑みを浮かべていることも。全部全部、知ってるのだ。
それでも繰り返すのは、何よりもこの時間、空間が好きだから。大好きな人たちに囲まれて過ごすこの時が、何よりも好きだから。
今日も、もう何回も繰り返してきた時間を過ごす。そして、きっと明日も明後日も、もっともっと先の未来でも、こうして過ごしているのだろう。

「デンジ、一緒にいてくれてありがとう」
「何を今さら」



I know,




UP 10.10.17