日も暮れかけた時間帯、ギアステーションは帰路につく人々でごった返していた。私もその中の一人で、しかし私はホームではなく違う場所を目指し、人混みに流されぬよう必死だった。
そう、今朝落としたと思われるライブキャスターが落とし物として届いていないか確かめるためだ。白いサブウェイマスターさんに尋ねたが、結局話せずじまいだったから、未だに所在不明なのだ。携帯も持っているからと朝は気にしていなかったが、一応個人情報も入っているわけで、やはり安心はできなかった。見つからないと、怖いものがある。
しかし、私の心配は見事に的中し、遺失物センターのお姉さんから出た言葉は「届いておりません」だった。心底申し訳なさそうなお姉さんに連絡先だけ渡し、私は肩を落としてホームへ向かう。本当に今日は散々だ。

「あっ」
「え?」

雑踏の中から聞こえた声に、私は反応した。聞きなれた声でもなかったのに、なぜか私は振り向いた。
ぱちりと目があったのは、白いサブウェイマスターさん。なんでこんなところに、と思うが早いか動くのが早いか、白いサブウェイマスターさんは私の手をつかむとどんどん前へと進んでいく。何がどうなっているか頭がついていかない私は、とにかく付いていくことに必死だった。ただでさえ有名人な上、全身白の服と目立つ格好をした彼に半ば引きづられると、当然周りからの視線が突き刺さる。何処へ向かっているのかも、何で私が連れていかれるのかもわからない。今朝のことで怒られるのだろうか。不安ばかりが募り、余計に頭が混乱していく。

「あのっ」
「ごめん、もう少し待ってて」

何とかこの状況を理解しようと声を出すも、全て言う前に遮られた。何か焦っているように、つかつかと歩を進める。 ぎゅう、と痛いほど握られた手に熱が集まる。手袋越しに伝わる体温があつい。
だんだん人が少なくなり、行き着いた場所は事務室のような場所だった。事務机が2つと、応接用であろう向い合わせのソファー。人は、誰もいなかった。「ちょっと待ってて」とソファーに座らされ、私は状況を整理しようと必死だった。

「っひあ!?」

不意に足元に違和感を感じ、下を覗くとどこから来たのかバチュルが見上げてきた。遊んで欲しいのだろうか、キラキラした目で見上げ、手を差し出すと嬉しそうに鳴きながら飛び乗った。バトルこそ不得手なものの、ポケモンは大好きなのだ。白いサブウェイマスターさんが戻ってくるまでの間、私は偶然できた小さな友達と戯れた。




回る世界


110723