「恋?」
「………かなぁ」

ライモンシティの中心から道一本入ったところに、お気に入りの喫茶店がある。勤め先であるフレンドリィショップからも程近いそこは、知る人ぞ知る、と言った雰囲気のこじんまりしたお店で、友人である有名人、カミツレと会うのに適していた。
普段は前日に約束をして来るのだが、今日は唐突に会いたくなり、急遽時間をもらったのだ。忙しいはずの彼女は、それでもいつも時間をつくってくれ、親身に、時には厳しくアドバイスをくれる。もやもやと定まらない感情があるときは、カミツレと話すのが一番だった。

「バトルはさっぱりなあなたが、バトル狂として名高いサブウェイマスターに惚れるなんてね」

机の肘をついて手で顔を支えながらカミツレは言った。流石スーパーモデル、何気ない仕草がいちいち格好良く、時々私は同じ空間にいることが戸惑われる。それでもこうして懇意にしているのは、彼女も私を好きだと言ってくれるからで、私が彼女に頭が上がらない理由でもあった。
カミツレはウェイターの運んできたコーヒーに見向きもせず、真っ直ぐ私の目を見た。悩み事を相談するときの目だ。何でもいいから言ってごらん。そう、目で言われているようだった。

「やっぱりバトルできなきゃ相手にされないかなー…」
「そんなことはないんじゃない?サブウェイマスターだって人だもの、必ずしもバトルが全てとは限らないわ」

カミツレはコーヒーにミルクを注ぎ、スプーンでくるくる回しながらぴしりと言った。すぐ弱気になる私に、間髪入れずに前向きな考えを前に出してくれるから、いつも救われる。そうだよね、と頷きながらお気に入りのハーブティーを飲み下せば、弱気だった心は少しばかり強気になれるのだから、本当にこの友人は偉大だ。

「でもさ、どうやって近づけばいいのかな。もう今朝の件で絶対変な女だって思われたよ…」
「そうね…でも逆に考えれば、印象には残ったってことじゃないかしら」

これからその印象を良い方へ変えていけばいい。そう言ってカミツレは静かに微笑んだ。同性でもドキッとするほど美しい微笑みだった。
あぁもう、本当にこの友人には敵わない。もやもやと渦巻くすっきりしない心模様も、ほんの僅かな時間で解決してくれるのだから。

「カミツレって」
「なに?」
「一家に一人欲しいよね。人間洗浄機と言うか、一緒にいるだけで癒されるもん」
「あら、じゃあ一緒に暮らす?」

目が合って、二人で笑った。恋もいいけれど、やはり友人の存在とは偉大である。

「カミツレ、私頑張ってみるね」
「えぇ、応援してるわ」



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