気になる人がいる。
その人は毎日同じ時間、同じ場所で見る人だった。なぜなら彼は私が毎日通勤に使うギアステーションで働いているから。普段はバトルサブウェイでマスターをしているそうだが、生憎バトルは不得手な私にとって、そちらでは縁がなかった。ステーションには駅員さんがたくさんいる。それでも私は彼が気になって仕方なかった。






「あ、」

今日もまた、いつもの白いコートに身を包んで笛を吹いている。
悲しいかな、低めの身長の私は人込みに流されない様に必死で前を歩く。白い彼がいる方向が目指す出口。自分とは正反対に高い身長を見つめながら、鞄を落とさない様に抱え込んだ。
話したことも、間近で見たこともない。でもふと気が付けばまた明日も会えるかな、と思っている自分もいて。無意識に緩む頬は、同僚に指摘されるまで気がつかなかった。





ある日、いつも鞄に入れているライブキャスターがないことに気がついた。つい先程、電車に乗っている時は操作していたから、降りてから落としたのだろう。
連絡関係は携帯が主なので、仕事終わりに遺失物センターに行こうかとさほど慌てもせずに思っていたら、いつもの白い姿が目に入った。 その瞬間、無意識に足がそちらへと向かって、気が付いたら声が出ていた。

「あの、ライブキャスターを落としちゃったんですけど、落し物にありませんか?」

いつもの笑顔を固まらせ、彼は私を見た。駅員だから、こうして落し物を尋ねられることは多々あるだろうと思っていた私には予想外の反応で、してはいけないことをしてしまったのだろうかと自分の軽率さを呪った。



はじまりと勘違い その後、白い人にそっくりな黒い人が現れその場を収束したが、私は沈んだ気持ちのまま仕事へ向かったのだった


110524