日も暮れかけた時間帯、ギアステーションは帰路につく人々でごった返していた。ぼくはバトルサブウェイから少し離れて、皆がちゃんと目的の電車に乗れるよう誘導していた。毎日朝と夕方の1番混む時間帯だった。色んな格好をした人が忙しなく歩を進める中、ぼくは人混みの中に彼女がいないか探していた。
 ノボリに言われて頑張ってみようと決めたのはいいけど、まずは彼女に会わないと何も始まらない。話すキッカケは、ノボリがくれた。彼女が今朝落としたらしいライブキャスターだ。ノボリが拾って、ぼくから返すようにと渡された。今朝のはぼくが悪いから、謝りながら返せばいい、と。 せっかくノボリがチャンスをくれたんだから、がんばる。そう思っても、星の数ほどの人の中から、どうやって彼女を探せば…

「あっ」
「え?」

 少しだけ人の少ない場所、落し物案内の入口に彼女がいた。肩を落として、困った顔をしている。ぼくは考えるよりも早く、何が何だかわかっていない彼女の腕を掴むと、人込みをかき分けるようにして進んだ。皆がびっくりした顔でどうしたのかと見てくるが、そんなことを気にする余裕はなかった。自分でもどこへ行こうかなんて考えてなかった。ただ、今を逃したらダメな気がして。

「あのっ」
「ごめん、もうちょっと待って」
 
 何か言おうとする彼女の言葉をさえぎって、ぼくはある場所を目指した。そうそう人目につかない、彼女と話せそう場所。サブウェイマスター用の職務室だ。今ならノボリもいないだろうし、ちょうどいい。
 ぼくは職務室の簡易応接間のソファーに彼女を座らせると、一気に次に何をしようか困った。いきなり話しかけて大丈夫?でも何から?あぁ、ライブキャスターの事を謝らないと。ぐるぐる考えて、とりあえずオキャクサマにはお茶を出すのが礼儀だというノボリの言葉を思い出し、ちょっと待ってて、と彼女に告げて給湯室へ向かった。
 お湯を沸かしながら、彼女の元に戻った時に何から話そうと考える。あぁもう、こんなに考えるのははじめてかもしれない。でも、彼女と話すチャンスができたことは何よりも嬉しくて、気分が良かった。



動く世界


110727