朝。
ポケモンセンターで一泊したは、短パン小僧やらミニスカートやらとバトルしつつ、クロガネシティを目指した。地図で見るより近い道のりだったのか、はたまた久しぶりのジム戦に知らず早足になっているのか、思っていたよりも大分早く着いた。ポッタイシもルクシオも大分慣れてきたのか、元気が有り余ってる様子。このまますぐにジムへ向かうのも有り。有りだが、

「ジムリーダーが不在?」
「ええ、今は多分…炭鉱の方に居ると思います」

この街のジムリーダー、炭鉱のリーダーも兼ねてるんですよ。笑顔でそう教えてくれたのは、一旦休憩にと寄ったポケモンセンターのジョーイさん。ボールを受け取りながら、何だかゴツそうなジムリーダーだなと想像してみる。してみるが、想像から真実は生まれない。受け取ったボールを腰につけ、ひとまずクロガネシティの観光でもして行こうかと思い、ポケモンセンターを後にした。





クロガネシティは炭鉱で栄えた街なだけあって、街の至る所に通気口が設置してある。生まれてこのかた炭鉱というものを見たことがないにとっては、街の物すべてが目新しく映った。おのぼりさん丸出しの状態できょろきょろしながら歩くに、街の人は親切にあれはなんだ、これはこうだと教えてくれる。説明一つ一つに相槌を打ち、感嘆。
炭鉱の説明を聞いていると、自然と説明も足も炭鉱の方へ向いてくるもので、気が付けばは炭鉱の入り口に立っていた。

「入っていい、んだよね?」

見学は自由だと聞いたものの、炭鉱もひとつの仕事場なわけで、何となく入るのを躊躇った。目の前を行き来する作業員およびワンリキーを目で追い、やはり声をかけるのは憚られると思ったは、炭鉱の内部へと足を向けた。



炭鉱の中はひんやりとしていた。シンオウだからなのか、洞窟の中だからなのか、もしくはそのどちらもなのか。ぼんやりとした灯りを頼りに、は奥へ奥へと進む。
時々躓いて怒ったイシツブテにポッタイシのあわを喰らわす以外は、静かなものだった。土を掘り出す音、外へ運び出す音。普段聞きなれない音ばかり溢れた空間は、何だか別の世界のようだと思った。
それなりに炭鉱探検を楽しんでいただったが、ふと「クロガネジムのジムリーダー」の顔も名前も知らないことを思い出した。なんということでしょう。急に現実に引き戻された気がした。

「そこの君、迷子かい?」

ふいに後ろから聞こえてきた声が、自分にかけられたものだと理解するのには30秒ほど要した。振り向いた先に居たのは、作業員の被る電灯のついたヘルメットを被った男だった。随分若い。と同じくらいだろうか。
男は応えないに当惑した表情を浮かべながら、もう一度訪ねた。「君、迷子かい?」

「えっと…人探し中?」
「人?お父さんか誰か?」

私、そんな幼く見えますか。出かかった言葉を呑み込んで、「ジムリーダー」と一言告げた。途端、目の前の男は目を見開いて、驚いた時のテンプレートのような顔をした。

「ジムへの挑戦者?」
「ええ。炭鉱にジムリーダーがいるって聞いたんですけど、名前も顔も知らなくて」

そっかそっか、と驚きから解放された男は面白そうに笑い、はその様子から「もしかしたら」と思った。

「あなたがジムリーダーさん?」
「そうだよ。僕はクロガネジムのジムリーダー、ヒョウタ。ここの炭鉱のリーダーもやらせてもらってるんだ。君は?」
「私はカントーのです。シンオウで一番最初のジムがここだと聞いてやってきました」
「カントー?また随分と遠いところから来たね」

シンオウに来てから何度となく言われた言葉に笑い、それからは炭鉱で何をしているのかをヒョウタに尋ねた。
途端、ヒョウタの顔が輝いた。よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに話し始めたヒョウタを見て、何か聞いてはならないことを聞いてしまったような気がした。人間、好きなことの話となると周りが見えなくなるもので、ヒョウタの場合はそれが石、つまり化石や発掘に関わるものだったらしい。目を輝かせながら、まるで子供のようにはしゃいで、目の前の男は語り始めた。

「…そこで青い綺麗な石があって……が……でさ…」
「うん、それはすごいですね。いわゆる”みずのいし”ですよね。で、ジム戦なんですけど」
「それからこの間なんて……って、あああ!ごめん、化石の話になると止まんなくて…」

もしこの人が犬だったら、きっと今しっぽと耳がしゅんとしている。そんな光景が簡単に浮かぶ状況がの目の前にはあった。男に向かって申し訳ないが、可愛い。小さく零れた笑みを手で隠しながら、は言った。

「純粋に好きだって言えることがあるのって、素晴らしいことだと思いますよ」
「そう、かな」

目をぱちぱちさせ、それからはにかんだような、照れてるような、ヒョウタはそんな表情を浮かべた。はそんなヒョウタを不思議そうに見た。

「私、何か変なこと言いました?」
「えっ?いや、そんなふうに言ってもらえたの初めてだから、何か、新鮮で…」
「はぁ…」

不思議そうに見られていることに気がついたヒョウタは、気恥ずかしくなったのか咳払いをひとつ。

「いや、ごめん気にしないで。それよりジム戦だよね!ちょうど今炭鉱の仕事がひと段落ついたから、すぐにジム戦はできるよ」
「ありがとうございます。ジム戦が終わったら、また炭鉱や化石の話を聞かせてくださいね」
「!」

相手の口からそんなことを言われるとは思っていなかったヒョウタは心底驚き、それから破顔した。願ってもないことだ、と。
のんびりと世間話をしながら炭鉱を後にし、2人はジムへと向かった。


 

好きなものがあるって素敵なことです。

101212