もらったタウンマップを広げ、は考えていた。ジムのあるクロガネシティに行くには、コトブキシティから203番道路を通り、クロガネゲートをくぐればいい。道のりもそう遠くはないらしい。まだ昼前、今から出れば夜までには着くだろう。カントーとジョウトでの旅を共にしたメンバーだったら、は迷わず最短かつ最速ルートで行ったに違いない。しかし、

「もう少し仲間を増やしてレベル上げないとね」

初心に帰るためシンオウは一から手持ちを揃える。まだ戦闘慣れしていないポッチャマをもらった以上、ゆっくりじっくり観光も兼ねて行こう。タウンマップをしまい、とりあえず今日も目標はコトブキシティ。タウンマップをカバンにしまい、は202番道路へ向かった。







数時間後。
の手持ちはマサゴタウンを出発した時とはかなり変わっていた。カイリューはそのままだが、ポッチャマはポッタイシに、それから新規メンバーとしてルクシオが加わった。ルクシオは202番道路で捕まえた、シンオウではメジャーな電気タイプのコリンクが進化したのだ。経った数時間、されど数時間。出発時よりも格段にたくましくなったポッタイシと、新規メンバーながら電気技も覚え、早くも頼りになりそうなルクシオ。
久しぶりに一から捕まえ育てたせいか若干スパルタだった気もするが、ひとまず3段進化のうち2段階目までいけたことが満足な。疲れているであろう2匹をボールに戻し(ポッタイシはポッチャマの頃のなごりで頭に登りたがったが、流石に却下)コトブキシティに向かうことにした。

「あっさん!」
「あ、ヒカリちゃん」

コトブキシティに入り数歩歩いたところで、今朝会ったヒカリがいた。おつかいがどうのと言っていたから、それだろうか。を見つけた途端走り寄って来たヒカリを見ながら思う。

「ごめん、ポケモンセンターどこかわかる?」
「はい!じゃあ付いて来てください!」

朝からあっちこっち行ったり来たりで疲れないのだろうか、そんな疑問を抱くほど動き回っているヒカリだが、若さ故なのか全く疲れは見えない。ジュンに会った時もそうだったが、若いって素晴らしいと胸の内でそっと零した。声に出さないのは、言ったら地味にぐさりと胸にくる気がしたからだ。

「……いや、私もまだまだ若い。うん、若い」

若干遠い目をしながら呟くを不思議そうな眼で見つつ、ヒカリはポケモンセンターへと歩を進める。
シンオウでも開発の進んでいる中心地的存在なだけあって、コトブキシティにはポケモンセンターやフレンドリィショップはもちろん、TV局やトレーナーズスクール、GTS等々、とにかく流行の最先端を担う建物が多く立ち並んでいる。カントーでいうヤマブキ・タマムシ、ジョウトでいうコガネシティに当たるのだろうか。建物も多ければ、人も多かった。あちこちから来たトレーナーや、親子、何かの宣伝をしているピエロなど、とにかく沢山の人で賑わっていた。そんな人込みをかき分けながら、ヒカリとはポケモンセンターの見える位置までやって来た。
やって来た、が、

「あの人…何してるんですかね?」
「…さあ」

ヒカリとの視線の先には、ポケモンセンターとトレーナーズスクール、2つの建物の間を行ったり来たりするトレンチコート。回りがわいわいと楽しげに歩いている中、一人だけこそこそとしている姿はとても浮いている。やヒカリ以外の人もチラチラ見てはいるのだが、関わりたくないのだろう、何もなかったように通り過ぎて行く。
もちろん、もそうしようとした。した、が

「あのー」
「えっヒカリちゃん!?」

通り過ぎようとしたを知ってか知らずか、ヒカリはトレンチコートに話しかけた。ぎょっとして慌ててヒカリのコートを引っ張るも、時すでに遅し。勢いよく振り向いたトレンチコートと目が合ってしまった。

「ナヌー!!……なぜわたしが国際警察の人間だとわかってしまったのだ!?」
「えっ?えっ!えーっ!?普通に話しかけただけなのにー」
「あぁもう…」

聞いてもないことを言うトレンチコート、いきなり話しかけられて驚くヒカリ。はそんな2人を見て、頭を抱えた。あぁ、厄介な人に絡まれたな、と。

「……へっ普通に話しかけただけ?いーや、わたしをただ者ではないと見抜いて話しかけたのだろう?その眼力、恐るべし……!きみたち、できるな!
正体がバレたんだ。自己紹介をさせていただこう。わたしは世界をまたにかける国際警察のメンバーである。なまえは……いやきみにはコードネームを教えよう。そう、コードネームはハンサム!みんなそう呼んでいるよ!ところできみたち、人の物をとったら泥棒、という言葉を知っているか?」

トレンチコート、改めハンサムのマシンガントークに気押された2人は、何が何だか分からないまま「はっはい!」と返答。その答えに満足したハンサムは「うむ!」と大きくうなずくと、腕を組んで空を仰いだ。この人、刑事ドラマの見過ぎではなかろうか。そんな白い目をしたとは反対に、ヒカリは「何だかよくわからないけど、すごいですね!」と小声で呟いた。三者三様とはまさにこのことで、気が付けば3人の周りに人はいなくなっていた。道行くものは気になるには気になるが、近づきたくないのか遠目で3人を見ていたり見ていなかったり。

「そうとも!人の物を取るのは悪いことだ!で、このシンオウ地方にも人のポケモンを奪ったりする悪い奴らがいるらしい。そして私は怪しい奴がいないか探していたのだよ!
ところで君、トレーナーならこれを使いこなせるかい?」
「バトルレコーダー?」
「そのバトルレコーダーはバトルの様子を記録できる優れもの。最近流行ってるらしいから手に入れたけど、わたしはあまりポケモン勝負をしないからね。君が持っていた方がいいだろう。
……それでお願いだが、もしわたしを見かけても仕事だから話しかけないでくれ。いや寂しいから…じゃなくて怪しい奴を見かけたら何かあれば声をかけてくれ!」

再び一息にそれだけ言うと、またもコソコソと怪しい動きで人込みの中へ消えて行った。残されたとヒカリはぽかんとしながら、人込みを見つめた。ジュンとはまた別の意味で嵐のようだった…後日、はそう語った。
その場で固まっていた二人だったが、しばらくしてヒカリが口を開いた。

「……国際警察って大変なんですね」
「……そうだね」

できればあまり会いたくない、内心そんなことを思いながら改めてポケモンセンターへ入った。ヒカリは先へ急ぐ(一応シンオウ全体を回るためジムバッジも集めるらしい)と言って一足先にコトブキシティを後にした。
も回復だけしてこのままクロガネシティに行こうか迷ったが、今日の所はポケモンセンターを拠点にコトブキシティの散策でもしようという考えに落ち着いた。ジョーイさんに一泊したいとの旨を伝え、簡単な手続きの後、は再びコトブキシティ散策へ出かけた。





飛ばしても良いような気がしたけど、後々この人結構出るんだよなぁということで顔合わせ。

100313