はフタバタウンを出て、とりあえず西へ向かった。シンオウ地方へ来たのは初めてだが、何回か話を聞いたことはあった。どこになにがあるかまでは知らないが、シンオウは神話の多い地方。ここフタバタウンのすぐ近くにも神話のポケモンが眠ると言う湖があるらしい。せっかく近くに来たのだから、と看板の指示通りに森へ入る。
ざくざくと雪を踏みならし、時折木から落ちてくる雪をよけながら、のんびりと歩を進める。

「さっむー…」

隣にいるカイリューは寒さに弱いはずなのに、何故か着込んでいるよりも上機嫌。カントージョウトではシロガネ山くらいでしか味わえない降り積もった雪が珍しいらしく、大きな手で器用に雪玉を作っている。最初は手で小さな雪玉を、そして次第に大きくなり、今は雪玉を転がして立派な雪だるまでも作れそうなほど大きくなっていた。嬉しそうなカイリューを見ることができて嬉しいのだが、生憎は寒さに弱かった。あぁ寒い、とカイロを握りしめながら、雪が積もった木々の間を縫うように進んでいると突然、衝撃に襲われた。

「失礼」
「いえ、こちらこそ…」

流石に転びはしなかったが、少しよろけた。上の方から振って来た言葉に反射的に返事をし、その時になって初めて自分は人にぶつかったのだと理解した。
顔を上げると、じっとこちらを見ていたぶつかったであろう青い髪の男と目が合う。何か顔についてますか。見つめ返してもなにも言わない男に、段々と目を合わせているのが恥ずかしくなってきたは、思い切って口を開いた。

「…あの?」
「…いや」

男はふい、と目を逸らしそのまま横を通り抜けて行った。何が何だかわかならない。多分3分も経っていないが、妙に記憶に残る出会いだった。しばらくぼーっと去っていく男の後ろ姿を見ていたが、まあいっかと特に深く考えず、今度はぶつからないように前を見て歩き始めた。

「それにしても、暗い目だったなぁ…ってカイリュー、ちょっと待って!」

ポツリと呟き、仮にも自分のトレーナーが転びそうになったと言うのに雪玉を作り続けているカイリューの後を追いかけた。





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