「あっ、あの!」
「?」

森を抜けた瞬間、見知らぬ少女がを呼びとめた。辺りに人は見当たらないし、おそらく自分を呼びとめたのだろう、と思ったは声のした方を向いた。案の定、を見ている髪の長い少女と目が合う。

さん、ですよね?」
「うん」
「よかった!それじゃ、ちょっと付いて来てください!」
「えぇ?」

小柄な体のわりに、自分より背の高いをどんどん引っ張る少女A(仮)。反論する前に握られた手を振りほどくのも気が引けて、半ば引きづられるようについていく。なんですか、このシュールな図は。そんなの問いに答える者は誰もいない。とりあえず、今は目の前の少女A(仮)に話を聞こう。

「えっと、あなたは?」
「あたしはヒカリって言います。ナナカマド博士のお手伝いをさせていただいてるんです。それで、さんって人を研究所に連れて来いって言われて」
「なるほど」
さんって、カントーから越して来たんですよね?すごいなぁ」
「カントーというかジョウトというか…私一人で来るつもりだったんだけどね」

旅は大体一人、だからシンオウも一人で行って、終わったらまたカントーに戻るつもりだった。ところが、シンオウに行くと母に伝えたら、何を思ったか母は目を輝かせて自分も行くとのたまったのだ。ぽかんとしている内に、何時の間にやら母は引っ越しの準備を恐るべきスピードでやってのけ、なんと本当にフタバタウンに引っ越してしまった。
なんでもデザイナーの母は前からコンテストとやらに興味があるらしく、一度シンオウやホウエンのコンテストを見てみたかったらしい。そしてあわよくば参加したいらしい。我が母親ながら恐るべき行動力。も密かに舌を巻きながら、それでも何も言わずシンオウに来た辺り存外冷静だった。

「へぇ、さんもさんのお母さんもすごいですね!」
「そう、かな?」
「そうですよ!あたしはまだトレーナーになったばっかりで…バトルもあんまり得意じゃないから」

ヒカリは、まだ新しいモンスターボールを見つめながら笑った。博士の手伝いのためパートナーとなるポケモンをもらったものの、まだ日も浅く慣れないことだらけらしい。
そんな初々しい、自分から見れば後輩トレーナーに当たる少女を、は何となく微笑ましく思った。昔、初めて自分のポケモンを捕まえた時の感動が思い出されるようで、自然と懐かしさが湧いてくる。

「そういえば、何で森から出てきたんですか?」
「散歩だよ。ほら、ここの湖って何か伝説があるんでしょ?どんな所かなーって」
「あ、それなら私も小さい頃から聞いてます。伝説のポケモンがいる場所だから、荒らしたりしちゃダメだって」
「うん、すごくきれいな所だった。伝説のポケモンには会えなかったけどね」

会うつもりもなかったのだけれど。と言うか、あっさり会えるようなら”伝説”なんて言われないだろう。
ただ、フタバタウンから程よい距離にあるために散歩にちょうどよいのだ。シンオウに来て3日、今のところ毎朝行っている。の手持ちも雪で遊べるし、湖につけば水ポケモンも存分に泳げる。今こうしてヒカリと会ったのもその散歩の途中で、いつも(と言ってもまだ3日目だが)ならそのままフタバタウンへの帰路でのことだった。

「あっ研究所のあるマサゴタウンはあれです!」

ヒカリが指差した方を見れば、都市まではいかないもののフタバタウンよりいくらか大きな街が見えた。なるほど、研究所らしき大きな建物も見える。

「ヒカリちゃんはマサゴタウン出身なの?」
「はい!生まれも育ちもずっとマサゴタウンなんです。私のお父さんも博士の助手をやっていて、その繋がりであたしも助手をさせてもらってるんです」
「へぇ、ヒカリちゃんもすごいじゃない。その年で博士の助手なんて」
「えへへ、さんにそう言ってもらえるとすごく嬉しいです」

何この可愛い子。照れながら笑うヒカリにきゅんとした。補足しておくと、にそっちの気はない。
無事目当ての人を連れて見慣れた街に戻ってこれたのが嬉しいのか、の手を引っ張って駆けるヒカリ。だから、その小さな体のどこにそんな力があるんですか。本日何度目かわからない疑問を抱きつつ、それでも後輩にあたるであろう若き新米トレーナーの勢いは案外心地良いもので。なんとなく、シンオウ地方でも楽しく面白く旅ができそうだと思っただった。



ヒカリさんの一人称がわからなかったので「あたし」にしたんですが、実際どっちなんでしょう。
こっちの方が若干子供らしさがあるかな、という偏見。子供らしいと言うか可愛いと言うか。
100302